妊婦の歯科健診

投稿者: | 2015年1月11日

妊娠した方への歯科健診が推奨されているのはご存知でしょうか?

歯科では昔から言われていたことですが、近年産科からも推奨されるようになってきました。

妊娠した際に配布される小冊子などにも歯と妊娠の関係についても明記されるようになり、妊娠期間中の歯科健診が勧められています。
また、行政からも推奨されており、ここ橿原市でも、妊婦さんに対して、妊娠期間中に1回だけ無料で妊婦歯科健診を受けられる受診券(妊婦歯科健診補助券)が配布されています。

さて、ではなぜ、妊婦さんへの歯科健診が大事なのでしょうか?
それにはいくつか理由があります。

1つめは、妊婦さんはお腹のなかに赤ちゃんを受け入れるために、身体のなかで大きな変化が起こります。

それに伴い、ホルモンのバランスが変化し、またつわりなど体調にも変化が起こるため、お口のなかの状況も大きく変化しやすくなります。
具体的には、歯ぐきが腫れやすくなったり、唾液(つば)が少なくなったり、味覚も変わってしまいます。

お腹のなかで自分とはちがう存在を育てるために免疫機能も下がります。赤ちゃんを受け入れるための身体作りですが、同時に菌にも反応しやすくなるため、妊娠するまでは腫れなかった方でも、少しの菌で腫れたりしやすくなります。

唾液は虫歯を予防する効果があるので、唾液が少なくなると、虫歯になりやすく、進行もしやすくなります。
味覚が変われば、甘いものの摂取量も増えてしまうかもしれません。

このように、妊婦さんのお口のなかは虫歯や歯周病にかかりやすく、なおかつそれらが進行しやすくなっています。

妊娠中というのは当たり前ですが、皆さんできる限り、レントゲンの検査や治療、特に麻酔・大きな外科処置、また投薬などは避けたいですよね。でも、大きな虫歯や進行した歯周病だと強く症状が出てしまうなど緊急事態にはそれらの処置をするしかないケースもあります。(それでも、妊婦さんに使えない麻酔やお薬も多く、使えるものは効きにくいものが多いです。)

そうなってしまう前に、小さいうちにできる限り、虫歯や歯周病を治療していただき、予防処置をさせていただけるのが望ましいです。また、大きなものに関しては、痛みなどの症状が出産するまで、できるだけ出ないように進行を抑えるような応急処置を行います。

そのためにも、妊婦さんにはご自身のお口のなかの状態をしっかりと把握していただきたいと思います。

「私は親知らずがあって、斜めに生えてるから磨きにくくて、汚れがたまりやすい。疲れたときには腫れやすいから、きちんと磨いておこう。もし少しでも腫れてきたら、痛くなる前に歯医者へ行って、きれいに洗浄してもらおう。」
「私はここに虫歯になりかけの歯がある。しっかり磨いて、フロスも通そう。少しでもしみてくるようなら、すぐに歯医者に行って治療してもらおう。」

こんなふうに把握していただくだけで、できる限り症状が出ず、大きく進行する前に処置ができることが多いのです。ぜひ、ご自身で責任をもって、ご自身のお口の状態を把握してください。

さて、妊婦さんに歯科健診を受けていただきたい2つめの理由は、妊婦さんはこれから赤ちゃんを生み育てる「お母さん」になるからです。

わたしたち歯科で診せていただく疾患の殆どが感染症です。この書き方をすると、「えっ?!」と驚かれる方も多いかと思いますが、正確には虫歯、歯周病(歯槽膿漏)の2種類が感染症にあたります。

虫歯、歯周病はそもそも虫歯菌、歯周病菌がお口に入って、歯や歯の周りにくっつくことで感染します。
当たり前ですが、生まれたての赤ちゃんのお口には歯がありませんので、虫歯菌、歯周病菌は存在しません。

では、その菌たちはいったいどこから来るのでしょうか??

それは赤ちゃんに歯が生えてから、ご両親、おじいちゃんおばあちゃん、お友達など、外部から入ることによって、感染するのです。
最近では口うつしは厳禁!と言われているため、この知識をしっかり持っているお母さんも多いと思います。ただ、保育園や幼稚園など、通園しはじめるとお母さんの目から離れる時間ができてしまうため、不可抗力で感染してしまうケースが殆どだと思います。もちろん、今でも虫歯菌や歯周病菌に感染せずに生活をすることは難しいと思います。

赤ちゃんの歯は生えたては非常に弱く、生えてから時間をかけて、歯は強くなっていくのです。そのため、1歳で虫歯菌に感染するのと4歳で虫歯菌に感染するのでは大きく意味が異なります。

また、虫歯がいっぱいあるご両親のお口のなかには強い虫歯菌が存在します。ご両親がしっかりと治療、そして歯磨きをし、その虫歯菌の量を少なくすることが大事です。(虫歯菌は一度感染すると0になることはありません。)

そうとはいえど、お子さんが虫歯菌に感染したからといって、すぐに歯が虫歯になるわけではありません。

①虫歯菌と
②虫歯菌のエサとなる砂糖と
③虫歯菌の出す酸に溶けてしまう歯
の3つが揃わない限りは虫歯にならないのです。逆をいえば、それら3つが整えば、いつでも虫歯になってしまいます。

そのため、虫歯の予防には

①虫歯菌の量を少なくする→適切な歯磨き
②適切な砂糖の摂取→正しいおやつの習慣(何回も食べない、だらだら食べない、夕食後に食べないなど)
③歯を強くする→フッ素入りの歯磨き粉の使用・フッ素の塗布

などが挙げられます。殆どが生活習慣に関わる部分です。これはお子さんの努力ではなく、ご両親、特にお母さんに努力してもらわねばなりません。そのため、これからお母さんになる妊婦さんには、しっかりとその自覚を持って、子育てに臨んでほしいと思います。

長々と書きましたが、ご本人のためにも、生まれてくる赤ちゃんのためにも、ぜひ妊娠期間中の歯科健診をうけていただきたいと思います。
つわりなどでしんどい時期もあるかと思いますので、その時期は避け、体調が比較的落ち着いている5~7ヵ月(16~27週)ぐらいに受診していただくとよいと思います。

もちろん当院でも橿原市の妊婦歯科健診を受診できますので、お気軽にご連絡ください。

参考文献

・大嶋隆 : 小児の歯科治療 −シンプルなベストを求めて−. 大阪大学出版会, 2009.

・檜垣旺夫, 祖父江鎭雄 : 小児歯科保健新書 −小児の健康と歯科疾患−. 永末書店, 1996.